約 4,512,031 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2669.html
8東京都Fバトル会場付近の神姫センターは普段とは段違いなまでの度数の熱気に満たされていた。真夏の甲子園を連想させる感情の嵐は通常の規格よりも巨大な筺体を中心として渦巻き観客達の様々な声が神姫バトル参加者に襲い掛かる。或る神姫の可愛らしさを褒め称える様な歓声、或る神姫の危機を救わんと叫ぶ悲鳴、或る神姫の卑劣を詰る様な怒号。一つの場所に人の密集度が高いと言うのはそれだけで重圧となり或る神姫プレイヤーは身体が竦み或る神姫プレイーは吐き気にも襲われていた。 魔物でも住んでいそうな文字通り阿鼻叫喚の異世界の中で黒野白太/イシュタルは普段通り、到って普段通り悪役を演じていた。参加者十五名の神姫バトルロワイアル、森林の多い山岳地帯の夜となれば森林に身を潜めて奇襲を狙うのは定石だろう。だが卑怯卑劣が売りの黒野白太/イシュタルは何故か今回のバトルに限って身を隠す事は無く悠々と散歩でもするようなノリで森林地帯を歩いていた。そんな事をすれば参加者の誰かに奇襲されるのは当然の事で、然しながら奇襲は失敗しそれから予定調和と言わんばかりに普通の戦闘になる。 武器を壊す『刃毀れ』の黒野白太/イシュタルへの奇襲に失敗したモブキャラは武器の破壊を怖れ出来る限り距離を取って攻撃する。そんなテンプレ的な対応策にテンプレ的な対応策の対応策として黒野白太/イシュタルは弾幕を?い潜り得意な近距離格闘(レンジ)で襲い掛かる。ストラーフMk2型とは思えない素早さで接近されたことに焦ったモブキャラは急いで小剣を取り出し振り下ろされた大剣を防御するが勢いだけは殺し切れず仮想空間の地面に叩きつけられ急いで起き上がろうとするも背中を踏まれ押し付けられる。 黒野白太/イシュタルは大剣を下向きにして持ちそのままの振り下ろしてモブキャラのリアパーツのみを破壊すると脇腹を蹴り飛ばした。敗北を覚悟した筈なのに壊されたリアパーツだけ、意味が分からないと言う視線に黒野白太/イシュタルはヘラヘラと笑って返す。 「何? どうしたの?」 神姫越しに見えそうな黒野白太の表情と神姫の声帯を借りて聞こえた黒野白太の声に言い様の無い不安を感じた。尻尾を巻いて逃げようと決めた時には既に遅くストラーフMk2型標準装備のリアパーツの副腕に掴まれて引き寄せられる。何とかもがいて副腕の呪縛を解くと同時に黒野白太/イシュタルは両手に持つ二本のナイフをモブキャラの神姫の素体に滑らせるように走らせる。 ほんの刹那に神姫の素体を一切傷付ける事無く胴体を守る装甲の留め具や接続部を破壊し崩れ落ちたパーツをこれ見よがしに踏み砕く。その神業的なナイフ捌きへの驚きよりも黒野白太/イシュタルの目的を知った事への恐怖がモブキャラの中で勝っていた。目の前の武装神姫は遊んでいる、何時でも倒せると言うのに敢えてそれをせず極限の精密動作性で装甲を壊す事を楽しんでいる。 「ほら、どうしたの? まだ武器はあるでしょ?」 副腕の拳がモブキャラのヘッドパーツに命中し大きくよろめいた所で黒野白太/イシュタルが目前にまで迫る。 小剣で斬りつけようとするが両掌を掴まれて動かせずそれならばと蹴りを放つが足が届く前に大きく跳躍したので悪足掻きの蹴りは空を切る。黒野白太/イシュタルは宙で身体の向きを反転させると副腕の掌でモブキャラの頭部を包むとリンゴでも潰すかのような勢いで握り潰す。 グシャァと何かが破裂した音と共にヘッドパーツの部品が副腕の掌からボロボロと零れ出るがモブキャラの敗北判定は出ない。副腕はヘッドパーツを握り潰して破壊しただけでありモブキャラには僅かなダメージも与えていない。それでも精神面は言い様が無くダメージを受け続けておりなまじその手に武器があった事が降参と言う最善の選択肢を引き留めていた。 「う、うァアアアアアアアッッッ!」 ホラー映画の犠牲者宜しく咆哮と銃声を奏でるモブキャラに黒野白太/イシュタルは回り込む。所詮ストラーフMk2型であり速度自体は大してないものの時には樹木に身を隠し時にはバク宙をしたりと獣の様な身軽さで翻弄する。段々と距離が縮められ弾丸を撃ち尽くしたモブキャラが急いで装填をし直すがその瞬間を見計らって飛び掛かる。飛び掛かられ押し倒すと副腕でモブキャラの抵抗を抑えつけながらもスカートに手を掛けたかと思えば力付くで引き剥がした。 バトルステージの外、筺体を円形に囲む観客席から男性と卑しい歓声と女性の痛々しい悲鳴の合唱が聞こえて来る。 さて次はアームパーツだと立ち上がって意気揚々とナイフを手に取った黒野白太/イシュタルに人の目がある副審のマシンが警告を届けてきた。曰く装甲の破壊は確かにルール違反ではないが観客にも対戦相手にも気分を害させるので中止するようにと。 何となくモブキャラを見ればモブキャラは仰向けに倒れたままの状態で左手の甲で目を隠しており頬には涙が流れている。どうやら余りにショッキングな出来事にマスターと神姫共に戦意を喪失して泣き出してしまったらしい。もう少し壊したかったのが黒野白太の本音だが当初の目的は果たせたので良しとしイシュタルにモブキャラの首を素体の腕で刺し貫かせた。二度目のグシャァと何かが破裂した音の跡には何も残らず黒野白太/イシュタルは再び悠々と歩き始めた。 『もうこんなのは二度と御免だ。』 『いや、御免ね。でも、こうするしか無かったしさ。』 『二度と「こうするしか無かった。」等とふざけた事を口にするな。』 『分かったよ。でも、僕は悪くない。』 黒野白太の命令とは言え強姦魔のような事をしてしまったストラーフ型Mk2神姫イシュタルは目に見えて激怒している。原因も理由も分かっているが黒野白太としてはイシュタルには元の冷静さを取り戻して欲しかった。恐らく次に戦う事になる相手は今のモブキャラとは異なり一切の雑念を抜いて本気で戦っても尚その剣が届くかどうかすらも危い相手なのだから。内心その時をまだかまだかと子供のように待ち侘びる黒野白太はイシュタルを宥めつつも聴覚を研ぎ澄ませる。周辺は不気味なまでの静寂を醸し出しておりバトルロワイアルだと言うのに別の参加者達が争い合うよう戦闘音も聞こえない。黒野白太の目論見は成功している、後はそれが何時来るかだが――――――来た、観客席の誰か(恐らく男性)が彼女の名前を呼んだ。 彼女の名前を呼ぶ者は一人から二人に、二人から四人に、ミジンコの単体生殖の様に分裂し増殖し神姫センターを彼女の名前で埋め尽くす。彼女とは一体誰か、決まっている、悪の怪人が現れた時に人々が名前を呼ぶのは正義の味方であると決まっている。 「竹姫!」「女帝!」「TAKEHIME!」「葉月御姉様ぁ!」「竹姫葉月!」 渾名『女帝』―――竹姫葉月、神姫バトルの本場である日本の頂点、世界で一番強い神姫プレイヤー。 今日この日神姫センターが普段よりも異常な盛り上がりを見せている原因の八割近くが竹姫葉月の参戦によるものである。黒野白太の目的は竹姫葉月とタイマンで戦う事でありその為に自転車を三時間漕いでまで今回の神姫バトルロワイヤルに参加したのだ。悪名高い『刃毀れ』黒野白太が残虐非道な神姫バトルをすればそれを目にした観客が望むのは『一番強い』竹姫葉月による正義の鉄槌だろうから。 全ては黒野白太の思い通りに物事が進んでいる、事実、他の参加者は黒野白太/イシュタルに何もせず隠れながらも監視している。彼等にしても有力者同士が潰し合ってくれればが助かるのだろうけど、黒野白太にとって他の参加者なんてものはどうでもよかった。 レーダーを頼りに黒野白太/イシュタルは道を誘導するかのような位置に隠れている参加者達に従って森林を歩く。少し経つと森林の牢獄の挟間にある開けた場所、バトルステージ中央の浅瀬の川がある地帯に出た。空には満点の星、雪よりも白い満月、それ等は全て水面に鏡写され、突き出した岩石に腰を降ろすアーンヴァル型神姫の存在感を際立たせている。 「今晩は。月が綺麗ですね、竹姫葉月さん。」 「仮想空間なんですから当たり前でしょう。」 「………久し振りだな、アルテミス。」 「久し振りと言う事は貴方はイシュタルなんでしょうか?以前会った時は初代ストラーフ型神姫でしたよね?」 「色々あって前のボディが使い物にならなくなっちゃってね。神姫一転って事で移し替えたんだよ。」 「そうですか。それでも腕は落ちていないようですね。」 「まぁ元々こっち(ストラーフMk2型)に合う戦い方をしてたから。ほら、卑怯者の『刃毀れ』。」 「知っていますよ。前々から思っていたのですが、貴方は何故あんな戦い方をしているのですか? 貴方は普通に戦っても強いでしょう。」 「僕よりも強い人に強いなんて褒められても皮肉にしか聞こえないね。」 「質問に答えて下さい。『刃毀れ』。」 「他ならぬ葉月さんに渾名で呼ばれたくないんだけど。名前で呼んでくれれば答えます。」 「面倒な人ですね。答えなさい、黒野白太さん。」 「うんうん、それでいい。で、僕が『刃毀れ』として戦う理由だけど建前と本心の二つあるんだ。建前の方の理由は僕なりの手加減(と書いて騎士道と読む)だよ。」 「手加減(と書いて手加減と読む)?」 「よく考えてみてよ。武器を壊したり装甲を壊したりして僕に何かメリットはある? 無いよね。相手の武器を奪うとか装甲を奪うとかならともかくさ。僕だったら武器とか装甲を壊すくらいなら相手の急所を直接狙う。イシュタルにはそれが出来る。それをしないのはそれじゃ面白くないから武器を壊したりしてるんだ。僕には神姫バトルが強い知り合いとかいないからさ。遠征するお金も無いし。そういう縛りプレイでもしていないと神姫バトルも作業ゲーで詰まらないものになっちゃうわけ。あ、でも勘違いしないでよね。手加減して負けたからって言い訳するつもりはないよ。僕は八年間神姫バトルしていて一度でも負けていい試合なんてした事が無いのが自慢なんだから。格上相手には全身で挑んで全力で勝ちにいく。格下相手には全力で手を抜いて全身で勝ちにいく。それが僕だ。まぁ、僕としては前者の方が遣り甲斐があると思ってるけどね。」 「それが建前だと?」 「うん。本心で言えば世界一強い神姫プレイヤーの竹姫葉月に勝ちたいから。それ以外に理由なんて無いよ。」 黒野白太/イシュタルは竹姫葉月/アルテミスへと歩み寄る、川の水がぱしゃぱしゃと音を立てながら飛沫を上げて弧を描く。 「勝利よりも大事なものがあると知った風な口を叩く奴も居る。たかが神姫バトルと嘲笑う奴も居る。じゃあそいつらは今勝てなくて一体いつ勝つんだ?敗北したままで満足なのか。この人には絶対に勝てないって納得して諦観めるのか。違うだろ、親友も両親も師匠も好敵手も天敵も全ては勝つ為にあるんだろ。勝利こそがオーナーの神姫を結ぶ友情の成果だと信じている。勝利こそが積み重ねてきた努力の証明だと信じている。勝利こそが神姫バトルの全てであると思っている。だから僕は竹姫葉月に勝ちたい。イシュタルに勝ったアルテミスに勝ちたい。世界一強い神姫プレイヤーに勝ちたい。勝って僕は今よりも一歩前に進みたい!」 強く飛沫上げた黒野白太/イシュタルは両手にナイフを握り締め身を低くし身構えてキツく竹姫葉月/アルテミスを睨み完全な臨戦体勢に入っている。先程までの熱が入った詭弁とは異なりその手に握るナイフのような冷たく鋭い眼差しに竹姫葉月/アルテミスは岩石から腰を上げて月光色の大剣を手に取った。 「何と言うか、今まで好い加減な人だと思っていましたけど、実は熱い人なんですね。」 「僕は神姫バトルに勝ちたいだけの武装紳士さ。」 「そう言えば今回は神姫バトルロワイヤルですがいいんですか? 例え貴方が勝ったとしても消耗し切った状態で優勝出来ると思いませんが。」 「別にいいよ、優勝くらい呉れてやる。と言うか、そもそも僕は初めから葉月さん以外に眼中に無いし。」 「そこまで熱烈に迫られて無碍にするのは礼に欠けますね。いいでしょう、全力で御相手します。アルテミス!」 「はい、マスター!」 「今度こそ勝ちにいくぞ、イシュタル!」 「勿論だ。負けっぱなしと言うのは性に合わない!」 先に走り出した黒野白太/イシュタルは加速しつつ両手にナイフを構え付け加え副腕の両方に大剣を握らせて竹姫葉月/イシュタルに迫る。 「二刀流…いや、四刀流!?」 「独眼竜の六刀流ってぶっちゃけあれメリケンサックみたいな何かだよね!だから僕は負けてない!」 神姫自体の両手にはナイフが二丁、副腕にはリアパーツとセットになっている大剣とまた別の大剣の二振り、計四本の剣。 流石に四本もの腕から成る剣技は捌き切れないと判断した竹姫葉月/アルテミスはアーンヴァル型神姫の領域である空中へと飛び逃げる。 黒野白太/イシュタルは屈んだ両膝の動きに合わせて二本の大剣を川に叩きつけ加速させながらも上方向に跳躍し無理にでも近距離戦に持ち込もうとする。 大剣の剣先が届くまで距離が縮まった瞬間に竹姫葉月/アルテミスは空中でターンし最短最適の速さで逆方向への方向転換と加速を済ませて蹴りを叩き込んだ。追い付こうと無理に加速していた為に防ぐ暇も無く跳躍の勢いを殺されて落下する黒野白太/イシュタルへ追撃にと持っていた大剣を投げ付ける。難無く片方の大剣で弾き飛ばすが驚異的な加速でその瞬間に追い付いた竹姫葉月/アルテミスは最高速度を維持したまま自分の大剣を掴みそのまま振り下ろした。もう片方の大剣で防がれるもの重力と加速が乗っている一撃なら押し切られる、がそれを黒野白太/イシュタルの手のグレネードランチャーの銃口が覗いていた。 「BANG☆」 茶目っ気たっぷりに洒落になって無い砲撃を叩き込み二人の武装神姫の僅かな間で神姫大の規模の爆発が起きる。予め爆発による被害や衝撃を計算していた黒野白太/イシュタルは難無く川辺に竹姫葉月/アルテミスは少し吹き飛ばされてから空中で制止した。レッグやウェストに僅かな焦げ目が付いているもののダメージ自体が少なそうだ、バトル漫画でよくある衝撃の瞬間に退くとかの理屈で衝撃を激減させたのだろう。完全に決まったと思ったカウンターにアドリブで対処出来る竹姫葉月/アルテミスに羨望しつつも黒野白太は内心でくつくつと屈託有りで笑って見せる。天才、主人公補正、王道、才能、努力、邪道、悪役、思い浮かんだ全ての言葉(マイナス)は黒野白太が信条とする勝利の二文字の前に消え失せた。 「準備運動はここまでにしておこうか。」 「そうですね。」 「マスター、さっき全力で戦うって言ったばかりじゃないですか。」 「アルテミス、これは様式美と言う奴だ。つっこむだけ野暮だぞ。」 「はぁ、イシュタルはもう慣れっ子なのですか?」 「葉月と違いうちのマスターは『悪役』としてキャラ立てしているからな…。」 今度に先手を取った竹姫葉月/アルテミスは牽制射撃をするもチャージショットでの威力と速度が売りのレールガンでは足止めする事すら叶わない。と言うよりも黒野白太/イシュタルは常に必要最低限の動きしかしないのでストラーフ型とは思えない速度で接近してくる。敗北を予兆する黒猫の想像(イメージ)を振り払い竹姫葉月は『女帝』として世界最強の神姫プレイヤーとしての誇りを懸けて全力で迎え撃った。 黒野白太/イシュタルは武器を壊すから『刃毀れ』と呼ばれている通り竹姫葉月/アルテミスの渾名『女帝』にも当然ながら由来はある。竹姫葉月/アルテミスが何故『女帝』と呼ばれるようになったかその理由は至って簡単でシンプルに彼女達が強いからである。これと言って際立った武器も戦法も無く王道(セオリー)で勝ち続け世界最強にまで辿り着いた器用貧乏の最終形態こそが『女帝』である。 世界最強にして世界最高の『女帝』に対し黒野白太が採った戦法は「特に何もしない事」即ち竹姫葉月と同じく王道に基づいて戦うというもの。普段は状況や環境を自分の有利なように変える黒野白太が竹姫葉月と同じ戦法を選ぶに際し感傷的な感情が一切無いとは言い切れない。 例え相手と同じ土俵であっても黒野白太は負けるつもりは一切無いしそして勝つ秘策もあった。その秘策を公開する前に出来るのであれば勝利したかったが竹姫葉月/アルテミスはそう簡単に倒せる相手ではない。 アーンヴァル型の王道に従い制空権と空中での制動力を盾にし黒野白太/イシュタルによる手数のアドバンテージを覆す。加速と重力を上乗せさせたハンマーの一撃は四本の腕による防御の上からでもダメージを与えるだけでなく高度も激減させる。急加速と急停止を自在に出来る制動力をフルに活かし大剣による一撃離脱戦法を繰り返し少しでも隙を見せればレールガンの雷が落ちる。 一発目と二発目のフルチャージレールガンは大剣で弾き飛ばしたが三発目により副腕の一本が破壊された。自分から近付く事の出来ないジレンマと一方的に攻撃される苛立ちが招いた誤作動であるがこの一撃が逆に黒野白太を冷静にさせた。壊された副腕の大剣をリアパーツの鞘に納めて回収し四発目となるフルチャージレールガンを残った副腕の大剣で弾き飛ばす。そのまま黒野白太/イシュタルは微動だにせず待ち構えている、ストラーフ型の王道である不動戦法。 あのように待ち構えられてはレールガンは弾丸の無駄になるだけと判断した竹姫葉月/アルテミスは一撃離脱を狙い大剣で斬りかかる。それを受け止めたのは黒野白太/イシュタルの素体が手に持つ大剣、副腕はグレネードランチャーの銃口を川と垂直になるように向けて引き金を引いた。爆発を踏み台に飛び上がりつつも急加速、素早く大剣を盾にした竹姫葉月/アルテミスを踏み台にしてさらに上昇し制空権を完全に奪い取る。今まで散々苦しめられた重力を裏切らせ黒野白太/イシュタルは身体の向きを調節しつつ殆ど相手を見ずに大剣を投擲した。 アーンヴァル型でなら投擲された大剣を回避するのは容易いが本命は大剣の陰に隠れるように投擲された二本のナイフをくっ付けて出来た手裏剣。手裏剣は意思でも持つかのように回避動作を採った竹姫葉月/アルテミスを追跡し大剣が川に叩きつけられると同時にその刃が竹姫葉月/アルテミスの喉を突き破った。 完璧に仕留めた感覚が黒野白太/イシュタルがあった、観客達も世界最強の神姫マスターの痛々しい姿に静かな悲鳴を上げる。 だがジャッジが判決(コール)を下す事は無かった、竹姫葉月/アルテミスは喉に刺さった手裏剣を引っこ抜いてその辺りに投げ捨てた。歓声がドッと沸く、正義の味方は負けないんだと観客の誰もが共感する、唯一現状を把握する黒野白太/イシュタルを除いて。 『在り得ない。今の手裏剣はで確実に喉の急所を貫くよう気流を計算して投げたと言うのに。』 『もしかして川の水か?』 『何か気付いたのか?』 『手裏剣が当たる直前に川の水を蹴り上げて手裏剣に掛けたとすれば…完全な計算は完全故に狂う。』 『馬鹿な、あの二人は手裏剣に気付いていなかったはずだ。』 『僕達の勝利じゃない以上はそう仮定するべきだよ。』 努めて冷静にイシュタルを宥める黒野白太であったが今の手裏剣で仕留められなかったのは非常に不味かった。グレネードランチャーを副腕に撃たせての急速な加速により制空権を奪いそれから一気に仕留める気でいたのだがそれに失敗した。一度見せた手が二度と通用するとは思えない、相手はそれだけの技量を持っていると考えるべきだ。その予感は的中し制空権を取り戻した竹姫葉月/アルテミスはハンマーを振り翳して徹底して黒野白太/イシュタルの奇襲を補助する副腕の破壊を狙い始めた。 先の失敗で手軽なナイフを失った事のもまた痛く大剣の二刀流では一撃を防ぐ事は出来ても反撃するまでの時間が取れない。それから数度の襲撃を経て等々大剣を握る副腕は軋み上げ動きが鈍ったその隙に肘の部分を粉砕された。神姫自身にダメージは殆ど受けてないものの副腕を破壊され手裏剣は何処かに捨てられ残された武器は大剣とグレネードランチャーのみ。奇しくも黒野白太/イシュタルの今の状況は彼等自身が手加減と称した『刃毀れ』の戦法で武器を破壊された対戦相手の状況によく似ていた。 『イシュタル、やるぞ。構えろ。』 『やっとか。待ち侘びたぞ。』 尚も一切の敗北を認めず激しいまでの勝利への渇望に燃える双眸を見た竹姫葉月/アルテミスは油断無く大剣を身構えた。その直感は間違いでは無く黒野白太/イシュタルはまだとっておくきを、奥の手を残している。黒野白太/イシュタルの瞳の底、竹姫葉月/アルテミスが勝利への渇望を見たそこに、無数の真っ黒な蟲のようなものが蠢き始めた。 「「バイツァ・ダスト。」」 …。 …。 …。 その後、黒野白太/イシュタルは敗北した。 だが竹姫葉月/アルテミスもまた『バイツァ・ダスト』を破る際に重傷を負い勝敗が決した瞬間に別の参加者に襲撃され脱落した。悪役の黒野白太/イシュタルが敗北した時には歓声が湧いたが、正義の味方の竹姫葉月/アルテミスが敗北した時には何も起こらなかった。 それも当り前で、そもそも今回のバトルルールはバトルロワイアルである、激戦で消耗した相手を狙ったところで何か咎があるはずが無い。いや、よくよく考えれば今日の竹姫葉月/アルテミスもまた初めからバトルロワイアルをやるつもりでバトルロワイアル用の武装をしてやって来たのだろう。それに対し初めからタイマン用の装備で挑んだにも関わらず負けた黒野白太/イシュタルはこの上なく惨めな敗北をしたのかもしれない。 かもしれない、じゃなくて、したのだろう、筺体から離れた黒野白太を待っていたのは観客のニヤニヤした視線。あれだけ残酷な事をやって、あれだけ格好付けた事を言って、それでも負ければ、待っているのは周囲からの冷やかな嘲笑である。イシュタルは目を伏せて何も答えない、例えマスターが勝手にやった事であっても神姫にその責任が無いとは言えないからだ。そして黒野白太はと言えば、泣いているのか笑っているのか判別の付かない、ヘラヘラとした笑顔を浮かべる。 「また負けたね。」 「…。」 「また負けちゃったね。」 「五月蠅い、黙れ。」 イシュタルに怒られて流石の黒野白太も口を噤む。 負け慣れているからヘラヘラと笑っていられる黒野白太であったが矢張り神姫にとって敗北とは決して慣れるものではないらしい。竹姫葉月との勝負には負け、イシュタルの機嫌は損ね、後に残っているのは自転車で三時間掛る帰り道である。まぁ僕は主人公じゃないんだし仕方は無いか、と無理矢理にでも自分を納得させる黒野白太であった。
https://w.atwiki.jp/battlestationsmidway/pages/143.html
2chのスレッド 【XBOX360】Battlestations Midway 7【富国強兵】 【BM】 Battlestations Midway 【ミッドウェイ】
https://w.atwiki.jp/warandpeace/pages/17.html
THE LOST BATTALION The Lost Battalions A Battle That Could Not Be Won. An Island That Could Not Be Defended. An Ally That Could Not Be Trusted.
https://w.atwiki.jp/kyogre382/pages/9.html
3つの道から一つを選んでゴールを目指せ!14部屋で突破だぁ! アイテムは持たせられるがたったの一度しか機能シマセーン。ピンチに能力が上がるやつは避けた方がいい。つーか、持ってくるな! 進む道は全てランダム。ただし!部屋に入る前にメイド(?)さんにヒントを聞く事が出来るよ(ほとんど答えと同じだがな)。 野生ポケモンからはバトルせずに逃げる事が可能(ピラミッドは酷だよなぁ)。 「運」が試される(運も糞もねーだろ)。 部屋とメッセージ トレーナー…… でしょうか……? ひとの けはいを かんじるの ですが……回復なしでトレーナーとBATTLE!! 手持ちポケモンをぜ~んぶ回復してくれる神なお部屋 なにかが ささやく ような ものおとが きこえたの ですが……いきなりダブルかよヲイっていうような部屋(意味不明) ふつーにするーできる部屋 なぜだか すこし だけ なつかしい ふんいきを かんじるの ですが……ポケモンの攻撃を受けて状態異常されるお部屋(冷凍ビームノーダメージで凍りづけかよ!) ジェントルマンが気まぐれで1~2匹回復してくれるそうです! ポケモンの においが ただよってくる ようなきが するの ですが……非常に腹が立つ野生ポケモンが出現してくるみたい。 回復ありで腕の立つトレーナーさんと戦う …… どの みちの さきからも おそろしい けはいを かんじます……アザミがでてくる部屋(しかし弱いよなぁ。ファンの人すみません) 攻略法はまた後で。 何かあればどうぞ。 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/battlefield1918/pages/213.html
BATTLEAXE 1918 -バトルアクス作戦 1918- 目次 ブリーフィング 全体マップ チケット設定 陣地 登場兵器 解説 史実 コメント ブリーフィング HEADON MAP コンクエストモード / ヘッドオンマップ このマップでは、両軍が真っ向から対決して戦う。敵軍のチケットを先に『0』にした方が勝ちとなる。チケットは陣地を獲得したり敵兵士を倒すことで減らすことが出来る。 全体マップ チケット設定 陣営 比率(COOP) 減少速度(COOP) -% (-%) - (-) -% (-%) - (-) 陣地 陣地名 初期陣営 価値 白旗時間 確保時間 補足 --------------------未編集-------------------- - - - --------------------未編集-------------------- - - - 登場兵器 陸上兵器 --------------------未編集-------------------- --------------------未編集-------------------- 海上兵器 --------------------未編集-------------------- --------------------未編集-------------------- 航空兵器 --------------------未編集-------------------- --------------------未編集-------------------- 固定兵器 --------------------未編集-------------------- --------------------未編集-------------------- その他 --------------------未編集-------------------- --------------------未編集-------------------- 解説 未編集 史実 未編集 コメント コメントは最新20件が表示されます。 (過去のコメントを参照) 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/pokemanofjoytoy/pages/244.html
《大規模M A合戦/Large-Scale M A Battle》 大規模M A合戦/Large-Scale M A Battle イベント コスト:2RR 大日本帝國、世界、YAKATA 財政カードがステージからアウトローに置かれるたび、その財政の所有者ではない全てのプレイヤーに1ポイントが確定する。 財政が破壊?されたり、あるいは財政をアウトロー?に送った場合、相手プレイヤーに1ポイントが確定するという配置イベント。 となれば、必然的に財政破壊デッキへの投入が考えられる。自身の財政が破壊された時のために、イベント破壊のカードを忍ばせておくのも重要だろうが、決める時は一撃で決めたいところだ。
https://w.atwiki.jp/alliance2000/pages/168.html
暗闇の中でひっそりと息をひそめるのは一体の英霊機。暁王子とこルシファーだ。 それが跪く斜め後ろには黒いテントがあった。その中で戦士たちは最小限の焚き木で最後の打ち合わせをする。 「わが軍の撤退は完了しました」 「そうか。では、お前たちも撤退を」 「はっ」 テントの中の兵士たちはすでに用意していた荷物を抱え、去っていく。 逃げたかったわけではない。自分たちが早く逃げなければ作戦が遂行されないからだ。 十分もして誰も居なくなったテントの中、アサ王は安楽椅子に腰かけ嘆息した。 「テンシン……」 戦いの嫌いな彼女の死は、結果をして戦いを生み出した。 「これで、終わりにしよう」 不意に、背後に気配が生じた。アサ王が立ち上がり、振り返ろうとした瞬間、衝撃があった。 左肩に何かがぶつかった。 「フウゴウ。準備はもう万端なのか」 アサ王の左腕に抱きつくのは裸身の女だった。 肌は真珠のような光沢をもち、また程までしかない髪は七色に輝いている。誰もがこの女を見れば作り物と思うだろう。 事実、彼女は人間ではない。 ウリエル植民市の中にある非公式な市場には、市場で取り扱ってはならない英霊鉱を扱う場所があるという。 そしてウリエル植民市の旧貴族たちは英霊鉱に不老不死の効能があると信じてそれを体に埋め込む。 「おいおい、こんな美少女が抱き付いてるっていうのに、戦いの心配しかできねぇのかよ?」 「あいにく俺は心に決めたひとが居るのでね」 「一途だねぇ」 「それはどうも」 フウゴウはウリエル旧貴族の出だ。アサ王の猛攻を恐れ、死を恐れ、一家全員で英霊鉱を体に突き刺した結果、彼女だけが生き残った。 しかも、その後すぐ賊に入られて各地を見世物として売り飛ばされ回された結果、鬱憤がたまりどういうわけか英霊鉱が彼女の体内で溶け、英霊機に変化する能力を得てしまった。 その後ウリエル残党とともに明星の国と戦ってきたがアサ王と戦って負け、軍にスカウトされたのだ。 「ったく……」 残念そうにアサ王の腕から離れたフウゴウが頭を掻いた。英霊機となる時に服を着ていると毎回毎回服がダメになるので、彼女は戦闘の前になるとそこに誰が居ようと服を脱ぐし、過去の経験から彼女自身そう言うことに対する羞恥心が薄れているようだった。 「いいかい、キング。あんたは、あたしが殺すんだからな。絶対死ぬんじゃねえぞ」 「同じことをお前に言ってやりたいな」 フウゴウは戦いに参加し、功績を上げればアサ王に正式な決闘を申し込むことができる。そこでアサ王を斃すことが、彼女の目標であるという。 アサ王は焚き木の火を調整した。もう少し暗くても大丈夫だろう。ファントムにみられては面倒なことになる。 「……なんだ?」 焚き木を調整し、見るとフウゴウがなにか言いたそうな顔でこちらを見ていた。怒っているような、泣いているような顔だが部屋が暗くてよく見えない。 「もぉいいよっ。せっかく人が心配してンのに。ランファはよくあんたみたいなのと上手くやれたもんだぜ」 フウゴウはそういうとテントから出ていった。その後姿をアサ王は不思議そうな顔で見送った。 「?」 「あぁ、もう……」 テントから出たフウゴウはルシファーの隣に立ってその装甲を撫でた。 「お前のご主人様、ニブすぎるぜ」 ルシファーはちいさな唸りを持ってそれに応えた。 「へへっ。ンなわけぁねぇだろ。絶対にあたしを見せつけてやんぜ」
https://w.atwiki.jp/battlesimutrans/pages/28.html
第二回対戦(36~70ターン) ページ 12 参加者 プレイ進行順 1:128 会社名:十波電鉄 本拠地:十波 路線案内:停車駅案内 過去:8ターン目(路線図),7ターン目(停車駅案内),(7ターン目路線図),6ターン目,5ターン目,4ターン目 2:開光灯 会社名:羽曳野鉄道(HR もしくは はびてつ もしくは びきてつ) 本拠地:羽曳野 3:ラス 会社名:出雲しんわの国鉄道(出鉄(いずてつ)) 本拠地:出雲 4:まりも 会社名:中央高速鐵道(なかてつ) 本拠地:中央 5:mizuiro 会社名:イヨテツ 本拠地:松山 6:Roa 会社名:岩倉西方鉄道 本拠地:岩倉 7:窓 会社名:大野鐡道(おおのてつどう、略:大鐡) 本拠地:豊後大野 +対戦データ +対戦データ(グラフ) ※googleスプレッドシート試験稼働中 現在は表示のみで編集はできません。
https://w.atwiki.jp/beatnovel/pages/126.html
193 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/08/21(金) 00 57 59 ID DYSvyKCu0 絶体絶命の窮地に立たされたアルベルト。 こうなったのも全て姉貴のせいだぞ、と呟いて冷静さを取り戻そうとするが、 それでも体の震えは止まってくれない。体も震えて言う事を聞いてくれない。 コレが俗に言う金縛りってヤツか、とどこかに余裕が生存していた彼の脳が呟いた。 そんな事を考えていると、顎髭の所の三枚のパネルが光り出した。 もうじき、三条の光が俺を殺すのだ、とアルベルトは生を諦めた。 「スペード、高くジャンプしろ!」 突然の無線連絡。聞こえてきたのはクーリーの声だった。 その声が聞こえた瞬間、アルベルトを縛っていた金縛りのような感覚は あっという間に消え去り、彼はジェットパックを噴かせて急上昇した。 ブイィンと顎髭のパネルから三条の光が照射され、 じゅうぅと石畳が焼き切られていくのを眼下に見ながらアルベルトは上昇し続け、 次の瞬間には腹に強烈な衝撃が走っていた。 アルベルトが衝撃の走った腹を見る。そこには機械の腕がめり込まれていた。 その腕を辿っていくと、その先に青い箱が見えた。中にはIIDX筐体とクーリーの姿がある。 クーリー、いや、今はクウだ。アルベルトはそれをおさえつつクーリーとの無線連絡を試みた。 「助けてくれたのか?」 「ああ、まぁそんなとこ。礼ならユ…ログに。 彼女が言ってくれてなかったら君を助けられなかった。 そうだ、ダイヤはどうした?」 「ダイヤ?」 「ダブルエース2、ダイヤだよ。彼女の反応がレーダーから無いんだ。 一体どうした?考えたくないけど、ダメージを?」 クーリーは機体から伸ばしているアームを操作しながら飛行し、アルベルトを自らの機体上部に乗せた。 地面と平行になるよう飛行、一旦戦場から離れて様子を見ていく。 ユールが駆るエメラルドグリーンの機体がライオンと戦っていた。 ライオンの鬣レーザーを回避しつつ、ユールの速射砲が確実にライオンの装甲を削り取っていくのが見えた。 そんな光景を見ながら、アルベルトはクーリーの問いに答えた。 「…いないんだ」 「え?」 「この戦いが始まってから、ダイヤはどこかに消えた。 レーダーを見ても反応が無い。多分、リンク機能(※1)を消したんだ」 ※1 ユール達の視覚情報の一つであるレーダーに関する技術。 戦闘機であればそれそのものが、アルベルト達ならば装着しているパワードスーツが有している。 任意でオン/オフの切り替えが可能であるため、アルベルトはこう言った。 (※表示は注釈の常套手段といった所だが、オリジナリティのある注釈の仕方があったはずだと後悔している。 以降、注釈が必要と思われる場面では※表示で注釈をする) 194 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/08/21(金) 01 03 08 ID DYSvyKCu0 「リンク機能を消したって…どうして」 「知るか。怖気づいてどっかでコソコソやってんじゃねぇの」 「……この無線のコネクティング状態(※2)は一体どうなってんの?」 「オール(※3)。あんな奴知るかってんだ……俺達だけでやっちまおうぜ!!」 ヒャァアッハアアァァーー!!!と雄叫びを上げながら アルベルトは空高く飛んでいるクーリーの機体から飛び降りた。 途中でジェットパックを噴かせて落下スピードを調整し、手近な建造物の屋上に着地する。 そこはこの日の昼間、ユールとトルセが立ち寄った店だった。 店はもう閉まっており、アルベルトを除いて誰も居ない。というより、居ては色々と困る。 「さて、ここから奴をを狙い撃つとするか」 アルベルトは呟いて素早く建物の縁まで移動、 落下防止の柵にネックを突っ込ませ、全員に無線連絡で今から何処で攻撃するかを伝え、 緑のネックボタンを押さえ、雄たけびを上げながら激しいオルタ奏法で攻撃を仕掛けた。 どんな高難度譜面も真っ青な滝の処理をしているかの如きその勢いの攻撃は、しかし10秒で終わった。 「やべぇ、ペース配分を考えてなかった…」 アルベルトは疲労の蓄積した右腕をさすりながら注意深くライオンの動きを観察した。 自分がどこから撃たれているかは高範囲レーダーで分かっているはずなのである。 それならば、先刻の隠れながら背後を奪う作戦は無駄だったじゃないかとアルベルトは後悔した。 数秒もしない内に、ライオンの顔がユールの機体からアルベルトへと向けられた。 鬣が光る。アルベルトはそれを見、自分が今立っている所は建造物の屋上であるという確認をし、 それでも直ぐに柵を飛び越えて飛び降りた。直後に爆音が響き、一条の光が柵を大々的に破壊した。 パワードスーツの効果によって着地時の衝撃を殆ど受けることなくして アルベルトは先程までいた建造物の、その入り口前に着地した。 彼から見て一時方向に約20メートルの所にライオンはいた。 ライオンの鬣だけが動く。アルベルトは噴水を盾にするかのようにして立ち回り、城壁側へと移動した。 爆音が響き、視界の端が青白く光り、何かが壊れた音がするのを知覚しながらアルベルトは走り続ける。 どうにかしてライオンの背後を取って決定打を与えなければ、間違いなく負ける。 振り返って噴水がどうなったか確かめる余裕なぞない。 アルベルトは物凄い焦燥に駆られていた。 「スペード、私が奴の注意をひきつける! その間にどこか離れた所でドカンと一発お願いね!!」 ユールがオールコネクティング(※3)の状態で話しかけてきた。 アルベルトは「オッケ!」とだけ返し、ジェットパックで高度を上げ、素早く城壁の上に立った。 ※2…ユール達の使う無線は、特定の人物のみに絞って意思疎通が出来る代物である。 コネクティング状態には、オールコネクティングか○○(コールサイン)コネクティングという2種類がある。 ※3…オールコネクティングは、全員に無線連絡をするという事を指す。 ○○コネクティングは、その特定の人物のみと無線連絡する事を指す。 オールコネクティングにするには、通信状態を全くいじらなければそうなる。 195 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/08/21(金) 01 08 44 ID DYSvyKCu0 アルベルトはネックボタンを押さえないで激しくピッキングした。 そうする事で次の攻撃の威力が上がっていく。この武器はそういう風に出来ている。 5秒間も16分間隔のバーを処理する勢いでピッキングすれば、最大威力までチャージできる。 その5秒の間、ユールは上空からライオンに向けて攻撃を仕掛けていた。 右の速射砲が発射。 左の速射砲が発射。 それが繰り返され、左右で連射。 ライオンの全ての鬣が光る。 ユールの機体が激しく回転しながらライオンの頭上を瞬間的に移動する。 その間も左右の速射砲が絶え間なく弾体を射出している。 ユールの機体の軌跡を追うようにしてレーザーが照射される。 顔を動かすだけでは対処しきれない。 レーザーを照射しながらライオンが体を捻らせジャンプする。 ライオンの姿勢が空中で仰向けになる。 その直後、ユールの機体の右側から放たれる弾がライオンの腹に吸い込まれるようにして飛ぶ。 速射砲の発射音。弾体の着弾音。命中部からの爆音。 爆発が収まりライオンの腹が見える。少々焦げ付いている。 ライオンに埋め込まれているガトリングガンがユールの機体を向く。 ガチッと何かの音。直後にバララララと五月蝿い銃声。 ユールの機体が一気に急降下しながらライオンの真横を通り過ぎる。 その間、何発かの銃弾がユール機をかすめる。 微々たるダメージだとユール機のAIが判断。 アードは使わない。が、もう遅い。 ユールはライオンの攻撃をやり過ごし、最高速でこの場を離脱した。 そんな様子を見て、そしてユールがライオンに隙を作ってくれたことに感謝した。 ユール機が飛び去った方向は城壁とは正反対の方角だったのだ。 そして、ライオンはユールを追いかけるためにその方角へ走っていく。 一切の迷い無しにアルベルトは緑のネックボタンを押しながらピッキングした。 ビイイヤアオオォゥンッッ!!!とこれまでのレーザー発射音とは比べ物にならないほどの 途轍もない爆音がアルベルトの鼓膜を大きく刺激し、そして緑の図太く大きなレーザーが ライオンの背中を直撃、辺り一帯に緑色の爆風を展開させた。 「スペード、やったね!」ユールからの無線だ。 「あぁ、ログのお陰だ。恩に着るぜ」とアルベルトが返す。それに割り込むようにクーリーが言った。 「皆、あのライオンの背中から機械的なものが出てきた。 …あれ、装甲か何かか?よく分からないな……というか、だらしなく横になってる」 「何か、あのライオンピヨってねぇか?よし…叩くなら今のうちだ!!」 アルベルトの呼びかけにユールとクーリーが「オーケイ」と返し、 そして三人は動きを止めた銀に光る機械部分を丸出しにしたライオンとの距離を詰めていった。 210 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/04(金) 10 02 01 ID yReN+xzk0 2999/12/25/20 21 カーニバル第一ブロック ユール、クーリー、アルベルトの三人の活躍により、機械仕掛けのライオンがついにひれ伏した。 プシュ!プシューッ!とライオンの中の機械が嫌な音を立てる。 しばらくして、ライオンの体内からから何かが爆発する音が何回も聞こえた。 恐らく、これによってライオンはもう動く事は出来ないだろう。 私ならそう予測を立てる。ここまで内部破壊が進んでしまえば、 恐らくは精密機械が駄目になっているはずだからだ。 ユールが遠く離れた上空から何回も赤ボタンを押した。 一回目の打鍵でレールガンが現れ、二回目以降の打鍵で弾体が射出される。 それらの弾体は全てライオンに直撃する。体のあちこちが損傷し、機械部分をむき出しにしていく。 脚に当たれば金属の関節機関部が、顔面に当たれば金属の骨が露わになっていくのだ。 ユールの赤ボタンの打鍵は9回で打ち止めになった。 無線連絡で次にクーリーがライオンに接近して攻撃する旨をオールコネクティング状態で伝えたからだ。 クーリーが地表10メートルの高さまで急降下、ライオンの真上に上がる。 攻撃モードをSPモードからDPモードに変更、1Pサイドがノーマル、2Pサイドをハイパーにする。 これによって機体の左半分からはエネルギーバルカンが、右半分からはエネルギーライフルが放たれる。 エフェクターバーによって威力を半分程度に抑えていたが、 それでも地に伏せ続けるライオンにダメージを与えるのには十分だった。 クーリーの射撃が終わり、いよいよアルベルトが止めを刺す事になった。 ネック部をライオンの頭部から露出したメインコンピュータに突き立て、フィニッシュを決めるのだ。 「さーて、やっと一体目が終わりか。オイ姉貴、俺が手柄全部持ってくからな!」 意味があるかどうかは別にして、とりあえずアルベルトは叫んだ。 つかつかと歩いてライオンに近づき、頭の前で立ち止まり、左足で露出するメインコンピュータを踏みつけた。 両耳のレーダーの事が気になったが、ここさえ壊してしまえば、もう勝負はつくのだ。 アルベルトはそう思い、ギターを思い切って空高く掲げた。 彼の闘争心が叫ぶ。 これで止めを刺す! ネックを突き立てて思いっ切りオルタしまくってやる!! 211 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/04(金) 10 08 32 ID yReN+xzk0 だが、アルベルトは止めを刺せなかった。 躊躇いがあったわけではない。あのライオンを破壊する気は十分にあった。 アルベルトがギターのネック部をライオンの頭部に突き立てようとしたまさにその時の事だ。 ぎいいぃと金属の軋む音がアルベルトの鼓膜を刺激した。 それの意味するところは、この状況下ではたった一つしか考えられない。 ライオンの運動性能はまだ完全に失われていないという事だ。 「まずい!」 アルベルトはそう叫びつつ後ろを振り向き、ジェットパックで急上昇してライオンからの離脱を図った。 ライオンはその場にいた誰の想像も遥かに上回る俊敏さで立ち上がり、 上昇して離脱していくアルベルトに向けて胸部を向けた。直後に埋め込まれたバルカン砲が火を噴く。 アルベルトは上昇して直ぐに建造物の屋上に移動していたため、 ライオンとの位置関係によりそれの弾を喰らう事は無かった。しかし、彼の顔は次第に歪んでいった。 「畜生、もう少しで倒せそうだったのに!!」 アルベルトがそう叫んで数秒後、無線でユール、クーリーの驚きの声が聞こえた。 勿論、ライオンが起き上がって攻撃を仕掛けた姿を見て、である。 しばらくアルベルトが攻撃回避のため身を潜めていると、ライオンの撃つバルカン砲の轟音が止んだ。 これを好機と捉えたアルベルトは直ぐに落下防止の柵に体を預けるような姿勢を取り、 いつでも飛び降りて攻撃できる準備を整え、すぐに飛び降りた。 しかし、彼の「ライオンは攻撃してこない」という読みは全く外れていた。 「鬣が光ってる!?」 ライオンの攻撃はまだ手の止まる事は無かったのだ。 バルカン砲を撃つのを止めた訳がアルベルトには分かった。単純な、簡単な罠だったのだ。 攻撃の手を緩めたと思わせ、おびき寄せる。簡単な作戦である。 あいつらは、と思って上を見る。クーリーもユールも近くの空にはいない。 残念な事に、二人の助けは期待出来そうになかった。 212 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/04(金) 10 16 53 ID yReN+xzk0 「クウ、アルがやばい!」 ユールはクーリーに無線で叫んだ。 直ちに自分が向かってライオンに向けて攻撃を仕掛けようと考えたが、 ライオンとの距離を考えるとどう頑張っても間に合わなそうだ。 最新鋭の戦闘機、それを支援するこの機体。そんな機体で間に合わないはずが無いのだが、 戦闘の素人であるユールにはやはりというべきか、こんな緊急事態に対応しきる事は出来なかったのだ。 その証拠に、アルベルトを「スペード」と呼ばずに「アル」と言ってしまっている。 ユールからの無線を受け取ったクーリーは、自分もどうする事も出来ないと悟っていた。 距離が遠いのだ。この距離、およそ700メートルを急接近するならコンマ一秒もかからない。 常識では考えられないレベルでの急停止、急旋回、急加速が出来るこの機体をもってしても、 そのコンマ一秒でアルベルトの命の行方が決まってしまう事を悟ってしまったのだ。 そう、アルベルトが助かるはずがなかった。誰もが彼の死亡を確信していた。 瞬き一つすれば、その瞬間から彼の命は消え去ってしまうはずだったのだ。 しかし、いや、そこはやはりというべきだろうか。 彼の命は失われなかったのである。それどころか、どこからか放たれた極太のレーザーが ライオンの左耳に直撃、そこから黒煙が上がっていたのだ。 半壊した体で転がりまわるライオン。、まるで生きているそれが苦痛のあまりのたうち回るようにも見える。 アルベルトの持つギター型の銃器独特の銃声が遅れて響く そのしかし、アルベルトの手にピックはかかっていない。 彼でないならば、もう一人しかいない。彼から見て左、そこから銃声が聞こえて…… 「ゴメ、待たせたね!」 何が起きたか分からない様子のアルベルトの耳にオールコネクティング状態で少女の声が聞こえた。 アルベルトの耳にも、ユールとクーリーのそれにも聞き慣れた声であった。 「まさか……姉貴?」 「アリスなの!?」 「戻ってきてくれたか…」 上からアルベルト、ユール、クーリーの順でそれぞれの言葉が飛び交った。 その後、アルベルトが安堵の表情を見せる。 「よかった、てっきり姉貴が逃げ出したんじゃないかと…」 「馬鹿、アレよアレ。『敵を欺くにはまず味方から』っていうでしょっ……って、アル危ない!!」 213 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/04(金) 10 25 35 ID yReN+xzk0 「え?」 アルベルトは後ろを振り返った。 振り返ると、のたうち回っていたライオンが体勢を戻していたのが見えた。 アルベルトは咄嗟にギターを構えてバックステップして距離を取ったが、 それでもライオンの前面に存在する危険領域から抜け出せなかった。 ライオンの鬣は光らず、両前足を挙げてライオンの腹がアルベルトの方を向く。 埋め込まれているバルカン砲が、体の細い月の光を鈍く反射する。 「上昇しろ!!」 クーリーの声だ。 アルベルトはもう一度バックステップし、 地に足がついていないタイミングでジェットパックを噴かした。 アルベルトの体が急上昇する。 ライオンのバルカン砲が火を噴く。 初弾がアルベルトの足下1メートルの所を飛ぶ。 なおも上昇。 アルベルトの頭上後方にはクーリーの搭乗する青い箱が高速で飛来してくる。 青い箱の下方から機械腕が伸びる。 バルカン砲の18発目の弾がアルベルトの足下60センチメートルの所を飛ぶ。 アルベルトが上昇してから一秒が経過。 クーリー機とアルベルトとの距離、約20メートル。 アルベルトが上昇しながらライオンに向けて連射。 バルカン砲の24、27、30発目が相殺される。 バルカン砲の33発目の弾がアルベルトの足下20センチメートルの所を飛ぶ。 アルベルトが体育座りをするような姿勢に入る。 それに合わせてアルベルトの飛行傾斜角が前方に10度近く傾く。 クーリーがそれに気がついて進入角度を微妙に変える。 バルカン砲の42発目の弾がアルベルトの足下16センチメートルの所を、 47発目が12センチメートルの所を、55発目が5センチメートルの所を飛ぶ。 あと5発でアルベルトが最初の被弾。その一発が致命傷たり得るであろうと予測。 214 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/04(金) 10 47 05 ID yReN+xzk0 着弾まで残り4発。3発。2発。1発。着弾。貫通。 アルベルトの右足に強烈な痛みが走ったのと、 彼の体がクーリーの機体から伸びる機械腕によって抱えられたのはほぼ同時だった。 そしてその時、アルベルトが喰らったダメージの様子を完全に把握した者がいた。 「アルの右足……穴が、開いてる……?」 その人物とはユールのことだった。 彼女はHMD越しに得ている視界を操作し、アルベルトの姿をズームアップして見ていた。 オールコネクティングでクーリーがアルベルトに二度目の同じ指示を出したのも聞いた。 それを受けたアルベルトが背中のリュックのような物を噴かせて上昇したのも見た。 ライオンがバク宙しながらバルカン砲を撃っていたのも見た。 クーリーが自機の下方から機械腕を伸ばしてアルベルトを回収しようとするのも見た。 そして、機械腕に抱えられたアルベルトの右足が大きく跳ね上がったのが見えた。 跳ね上がった右足から赤黒い液が飛び散る。明度が低いために黒く見えたのかもしれない。 その後、アルベルトの右足にはバルカン砲の弾丸が形作ったトンネルがあった。 直径1センチメートル程度のトンネルの完成祝いの代わりのように、大量の血液が流れ始めていく。 「うああああぁぁぁぁぁああああ!!!!」 その叫びには「痛い」という意思表示は込められていなかった。 痛い、よりも畜生、という思いがアルベルトが被弾後に抱く思いであった。 私ならば「凄く痛い」とか「もう戦えねぇ」という気持ちを最初に抱く。 右足に綺麗な穴が開いてしまうのだ、これで真っ先に「畜生」などと思えるだろうか。 アドレナリンが放出されると痛みが感じなくなると言われるが、これはそういう問題であろうか。 右足に穴を穿たれたアルベルトは、クーリーの機体に吊り下げられながらある行動を取っていた。 「姉貴、どうやってあのレーザーって撃つんだよ?」 「え?チャージショットだけど。っていうか、アンタ撃たれたよね!?」 「大丈夫だ。でもな、俺も撃ってみたけどあんなレーザーにはならなかったぞ!」 「ホントだって。試しに30秒位溜めてみたら?そしたら撃てるかもしれない それよりアンタ大丈夫なの!?どうなのよ!!」 「大丈夫な訳ねーだろ!溜める時間と共に威力は比例して上がり、果ては無いのか… じゃあ最大威力とか何だってんだよ…5秒とかよ・・・まぁいいや、分かった。ありがとな! はやいとこ仕留めて、治療しなきゃまずいからな!!」 アルベルトはアリスにショットの仕方について尋ねていた。 勿論、この間にも彼の右足からは血が流れ続けている。 クーリーの機体が通った軌跡の真下には赤い線が描かれていく。 そんなことはお構いなしに、アルベルトはネックボタンを押さえず、ただひたすらにオルタしていた。 215 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/04(金) 10 53 19 ID yReN+xzk0 「まずいな…おい、聞こえてるか!?」 カーニバル上空。上空とはいってもユールとクーリーのいる高度を遥かに超えた上空なのだが、 そこには何も無い。いくら双眼鏡でどこに目を凝らしても何も目に入らない。 どれ程高性能なレーダーで探索しようと、その高度には何も映らない。 だが、そこには確かに空中管制機一機が存在していた。 10人程度のスタッフを乗せ、そのスタッフの一員として奮闘する者の中にアヤがいた。 彼女はこの空中管制機「フェニックス」にて同機の操縦、無線通信役、副司令官を買って出ていたのだが アヤの担当は戦闘機である。航空部隊のエースだ。指令役は過去に経験は無い。 「おい、返事しろ……ルセ!」 アヤは先刻のアルベルトの被弾の件を、彼女の隣に座る観察役のスタッフから聞かされたのだ。 それをトルセ、いや、今は特殊部隊「ルーズ」のルセに連絡しようとした。 ルーズの二人はターミナルタワー深部にいるため、外の様子を自分たちで知る事が出来ない。 それ故に、ルセはアヤにフェニックスを通して外の様子を逐一伝えるように頼んだのだった。 だが、戦闘開始と共にルセがそれを告げたきり、ルーズとは連絡が取れなくなってしまった。 言い変えてみれば、ターミナルタワー深部にあるWSFカーニバル基地との連絡が 一切取れなくなってしまったということになる。 アヤは観察役にターミナルタワーに外見上の異常は無いかと尋ねたが、一切無いと返されてしまった。 となると、考えられる可能性としては次の二つが挙げられる。 ■フェニックスの通信システムに異常が発生した。 ■カーニバルタワー深部に何か異常が発生した。 前者の可能性は無い、とアヤは踏んだ。 何故なら、フェニックスには同じシステムを幾つも積んでいるので、 一つが駄目になってもスペアがいくらでもあるからだ。勿論、これはフェニックスに限った話ではない。 カーニバルタワー深部の基地も同じような体制を取っている。 ならば、システム異常以外の何かが基地に発生したとしか考えられなくなる。 コンピューターウイルスがどこからか流入したか、それとも局地的な停電が発生したか。 一体何が起きているんだ、何を手こずっているんだ、とアヤは相当苛立っていただろう。 どういう訳か、システムに異常は見られないのにも関わらず、戦闘中の四人にも一切連絡がつかないのだ。 回線が切れているのか、そこはよく分からない。技術班も首をかしげるばかりだ。 ただ、ターミナルタワーに呼び出しをかける事は可能という不可思議な事態が発生していた。 これでは四人にどういう作戦でもって戦えばいいかをアドバイスできない。 ターミナルタワーの基地にも今の状況を伝えられない。アヤ達の役目はどうしても果たす事が出来ない。 自分のせいでないのに、自分の仕事を満足に出来ない事は、誰にとっても心理的な苦痛であるに違いない。 216 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/04(金) 11 01 09 ID yReN+xzk0 アルベルトが被弾して30秒前後が経過し、 ようやくフェニックスとターミナルタワー、戦闘中の部隊との相互連絡が可能になった。 原因不明の通信不能状態の原因をフェニックスが基地に問う。 アヤが席に着きながら、無線を使ってルセに連絡をオールコネクティングで取る。 「おいルセ、一体そっちではどうなってる!?」 「分からないのよ…いきなり回線がダメになったかと思ったら ついさっき突然回復したし…どうなってるの?」 「それを聞いてるんだよ……あぁそうだ、私の事はイロンって呼んで」 「イロンね。分かった。それで…システムには異常は見られないの。 となると、考えられるのはコンピュータウィルスくらいしか考えられない」 「ウィルスか……となると、送ったのは総帥?」 「でも、ここのセキュリティのデータは他に漏らしてないし、本部にも届けてない。 ガードを破るまでには相当な時間がかかるはずだし、 そうしている内に発見されて、ハッキングしてウィルス流入は無理だと思うんだけど」 「そうなんだよな…いや違う、それより重大な事態が発生した!」 「何?あ、そっちのカメラからの中継のデータが来て…え?スペード、彼はどうしたの?」 「見て分かるだろ!?撃たれたんだよ!!」 「そりゃ分かるわよ!いいわ、とにかく彼を呼び戻して!こっちで治療を…」 ルセが「受けさせる」と言いかけたその時、何か風を切る音が無線に割り込んだ。 ひゅおおぉ、と轟音が響いている中、その中に一人の男の叫び声が混じった。 「待ってくれ!奴に止めを刺してからだ!!」 アルベルトの声だった。 217 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/04(金) 11 13 02 ID yReN+xzk0 「アンタら、奴の背中にダメージを与えればぶっ壊せるって言ったよな!?」 「一応、背中が弱点だとは言ったけど…」 「じゃあなんで動きだしやがった!おかしいだろ!!」 「…別の方法で止めを刺すしか道はなさそうだな。 スペード、並びに戦闘中の全部隊員に告ぐ。 奴に決定的なダメージを与え、活動を停止させろ!」 了解!とユール達四人の声が同時に響く。 そして直ぐにアルベルトがルセとイロンに言った。 「それは分かったけどよ、奴を完全に破壊するにはどうすればいいんだ?」 「今、頭部のメインコンピュータが露出しているのが見えるな?」 「あぁ、見える」 「そこに攻撃を集中させろ。ログ、お前は特殊兵装で奴の動きを封じろ。 クウ、お前は奴の頭部を攻撃して露出範囲を拡大させろ。 ダブルエース、お前達は航空部隊が作ったチャンスを存分に活かせ! これで作戦の伝達を終える!スタート!!」 イロンの叫び声が全員の耳を劈く。 しかしそれでも各メンバーは素早く行動し始めた。 最初にユールがライオンの攻撃を惹きつけ、急上昇してレーザーを避けたり、 バルカンをライオンの周囲を高速で回り込んで射線からずれるなどの回避行動を取りつつ、速射砲でダメージを与えていく。 そんな一連のやり取りが始まって10秒ほどが経ち、ライオンが再び地に伏せた。 ユールはすぐさまバインドレインを撃つ。ユール機から黄色の氷柱のような弾が飛ぶ。 ライオンの体に着弾、そのまま貫通して石畳に突き立つ。 黄色の氷柱の雨がライオンに降り注ぎ、弾体が杭の役割を果たし、ライオンを動けなくさせた。 「オーケイ、次はクウ、頼んだよ!」 ユールがオールコネクティングでクーリーに声をかける。 「任せといて!」とだけ返し、クーリーが動けなくなったライオンに突っ込んでいった。 218 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/04(金) 11 25 58 ID yReN+xzk0 「さて…とどめの一撃、試してみるかな」 クーリーはそう呟きながら譜面難度をアナザーに変えた。 ライオンから20メートル離れ、高度は200メートルまで取る。 僅かなローディングののち、筐体の画面にメッセージが流れた。 「『音声コードを受付中』って何だ?ルセ、これは一体…」 「クウ、剣の声を通して筐体に認識させて!」 ルセは即座にそう答えた。剣、剣って言うと、ユールがペンダントにしていた。 あぁアレの事かとクーリーは思いながらログコネクションを試みた。 「ログ、剣の声を!」 「聞こえてたよ!ほら、早く喋ってよマキナ!」 「急かさない。……『最後の壁はあまりにも無邪気に』」 それ、どこかで見た一文だなとクーリーは思いながら剣、いやマキナの声を聞いた。 無線を通じてマキナの声が筐体に認証される。 筐体の画面に変化が現れた。素早くガチャガチャとレイアウトのパーツが降り、 IIDXのSPプレー時と変わりのない画面が構成された。 「嘘だろ、おい…」 クーリーは無意識の内に呟いて、そして無意識の内にコントロールパネルに手を伸ばしていた。 その直後、曲名表示も無く、いきなりサイレンの音が鳴り響いた。 そのサイレンの音は少し様子がおかしかった。伸びて切れ、伸びて切れを繰り返すのだが、 速いテンポでその流れがあり、ノリの良いリズムを形成する。サイレンが音楽になっていく。 「これ、白壁のサビのパートじゃ…」 画面にはまだ1ノーツもオブジェが降っていない。 特徴的なサイレンは間違いなく筐体のスピーカーから響き、クーリーの言う白壁、 IIDXの楽曲である「Innocent Walls」の1パートであった。 「そろそろ白壁地帯だけど、まさか……」 この曲のH,A譜面には共通してある印象深いノーツ配列が用意されているのだが、 それは置いといて、クーリーの目と手に入る力が意識的に強くなっていく。 「…壁を処理して攻撃するって事なのか………?」 219 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/04(金) 11 39 11 ID yReN+xzk0 曲がいよいよ白壁地帯に突入すると、 画面には例の白ノーツ四つを同時押しさせる譜面が降って来る。 クーリーはそれを全て捌き切り、ふぅと息を吐く。 その直後、画面に表示が出た。 「100%処理完了。とどめの一撃『プレッシャーウォール』の使用を許可します。 白鍵の打鍵によって発射されます。スタンバイオーケイ」 よし、とクーリーは適当に白鍵を押した。 するとクーリーの機体前面に白い大きな板のような物が現れる。 それは全貌を現すと同時に、ライオンに向けて落ちていく。 ライオンはそれを撥ね退けようと必死になって抵抗するが、 板はそれをものともせず、ただただライオンを地に押しやっていく。 板がライオンを圧迫してから10秒後、板が大爆発を起こした。 それによってライオンは大きなダメージを受ける。 これでもう、全ての駆動系が駄目になった。 その様子を見ていたアルベルトはクーリーに向かって言う。 「やったじゃねえか!」 「あぁ、僕の特技がこんな所で生かされるなんて、夢にも思わなかった」 「ところで、俺をここから落とせ。大丈夫だ。 着地の衝撃なら俺の着てる服が吸収する」 分かった、とクーリーは返し、機械腕を振り下ろすかのようにしてアルベルトを投げた。 「うらあああぁぁぁっっ!!」とアルベルトは雄たけびを上げながら落下、 ギターのネックをライオンの頭部につき立ててから着地した。 そこにアリスも駆けつけ、アルベルトのやっているようにネックを突き立てる。 220 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/04(金) 11 42 14 ID yReN+xzk0 「姉貴!オーバーキルでも何でもいいから 『いっせーのーで』で同時にショットだ!!」 アルベルトはアリスがネックを自分と同じように ライオンにつき立てたのを見てから、ありったけの大声で無線を通さずに叫んだ。 アリスも同様に大声で何か叫び、そして音頭を取る。 「いっせーのおぉぉぉーーーーー!!!!!」 そこで二人は一瞬時間が止まったような錯覚を覚えた。 こころなしか、ライオンの目が、死に怯えて生を懇願する光を放ったように二人は見えた。 それでも、無慈悲に、フィニッシュの言葉は叫ばれる。 「いけえええぇぇぇーーーーーーー!!!!!!!!」 「ぶち抜けえぇぇぇーーーーーー!!!!!!!!!!!」 とんでもない叫び声。 奇妙にハモる二つの叫び声。 それを掻き消す二つの銃声。 爆発する機械。 反動の衝撃で吹き飛ぶ二人の双子。 着弾点は緑の爆発で見えず。 空に浮かぶ青い箱が双子を機械腕で受け止める。 爆発が収まり、徐々に獅子の残骸が見えてくる。 機械仕掛けの獅子はどこもかしこもズタボロで。 体中の機械部を露出させて。 とても弱々しくて。 そして、首から先が、最初から無かったかのように消え去っていた。 carnival (re-construction ver) Phase 3 -decisive battle- St.4へ続く コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/wiz-fo/pages/196.html
アクセス制御 NINJA TOOLS 航空券 データ復旧 THE LAST BATTLE OF ニンジャ - アンケートページ このページは、ユーザーシナリオ「THE LAST BATTLE OF ニンジャ」のアンケート用ページです。 評価 投票数 ☆5 非常に面白かった。 3 ☆4 面白かった。 4 ☆3 普通だった。 2 ☆2 不満な所が目立った。 1 ☆1 面白くなかった。 0 このシナリオに対するコメントがあれば、こちらから。ただし、シナリオの内容そのものに関わらない内容の書き込み、シナリオ作者氏や、シナリオそのものへの誹謗中傷を目的とした内容の書き込みは禁止とします。シナリオについての雑談をしたり、攻略情報の質問・返答を書き込みたい場合は、外部掲示板をご利用下さい。 名前 コメント 忍者は前衛職のわりに(必要経験値も多く)HPに難があるので、これくらい優遇されれば他の職業とのバランスが取れると思う。 侍、忍者が攻撃力重視、戦士、ロードが防御力重視の職業となる職業バランスがすばらしいです。 中盤以降クリティカルを持った敵が多いのでちょっと辛いかも。 マップの構造が謎解きになっているのが良いと思う。 -- エルアキ☆ (2010-01-23 21 46 26) 総評はすでに別のところで書いたので割愛。シナリオ分岐は確かに1パーティーでマップ埋めたい人にはストレスだったかも。個人的には複数パーティーを作っていたので両方から攻略を進めるというLOL的な楽しみ方ができて面白かった。確かに忍者優遇だが、他の職業にも固有の性能を持つアイテムがあり忍者がいなくても十分楽しめると思う。 -- Hの人 (2007-09-03 07 14 52) 性格によってのシナリオ分岐が珍しい。ただ、その分岐イベントの為に行けない部分が出来たり、分岐関係で複雑には出来なかったかも知れないが、マップが手狭で単調な印象を受けた。だが、シナリオに関しては問題なく楽しめた。 -- n (2007-09-01 23 39 33) 外部掲示板でリプレイを連載していた者です。アドベンチャーノベルを書いている作者だけありテキストに雰囲気もあるし、マップの作りこみやアイテムの効果にもいろいろ工夫が凝らされていてなかなか楽しめました。難易度はそれほど高くないらしいですがノーリセットでやったら中盤かなり苦しみました。まだ全てを楽しみ尽くしたとは言い難いようです。攻略方法も3通りあるようですし、十二宮アイテムを揃えるまでやってみます。 -- Haplus (2007-05-14 14 22 46)